サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者 香港WORLD PREMIERE
March 22, 2012 14:25 in Hong Kong
本日は、今をときめく、ロイヤルなフォロワーが多い入江悠監督の最新作(日本4月公開)
『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』の香港国際映画祭におけるワールドプレミア。
いま、日本の映画プロデューサーが必ずや一度は企画書に名前を挙げているというほどの時代の寵児。3年後の日本の映画界のトップに躍り出ているであろう、入江悠監督が香港の映画ファンに初お目見えしました。
プレミアの会場となったのは、香港・太古城界隈のシネコン。
「あまり香港に来たという実感がないですね?」と監督が言うくらい近代化されたショッピングモール内にあるシネコンで、TOKYOなのかHONG KONG なのか、確かによく判らない感じです。
最近の、そしてこれからのアジアはみんなこんな感じで画一化されていくのかと思うと、ちょっと淋しい感じもします。
ところで、これは極めて個人的な意見ですが、作風と内容から言って、男性のファンが多そうな「サイタマノラッパー」シリーズ。ロードサイドの逃亡者はシリーズ3作目ですが、シリーズを通して、意外にも女性陣からのウケが異常によいのです。それは、映画の内容もさることながら入江さんの「いい男っぷり」、にあるのではないか?と2日間ご一緒して実感した次第です。
「女性がなぜか放っておけないタイプで、しかもカンタンに靡かなそうな硬派ぶり」が女性のフォロワーが多い理由かもしれません。が、どうやら私は何度輪廻を繰り返しても男に生まれていた前世の持ち主らしいので、入江監督の魅力をオンナ目線で語ることができないのがザンネンなのですが、しかし映画監督として、とてもクール(カッコイイと冷めているの両方の意味があります)な目線を持っていることと、それから人間的な魅力に溢れた方であることはよくよく伝わってくるようなステキな(というか不思議な)オーラをまとった監督さんです。まさにWARM HEART, COOL HEADが服を着て歩いているような。
さて、気になる香港での作品評価ですが、まずはプレミア上映後、会場内で見ていた舞台挨拶の通訳さんがまさに涙を流して大絶賛。「全盛時代の日本映画のように、封建社会の社会の閉塞感を打ち破ろうとする外向きのパワー、サムライ映画がリバイバルしたような風格を感じた。これは日本の映画史に残る傑作ですね」と瞳をうるうるさせながら興奮して感想を伝えてくださいました。
これはまさに歴史に残る大絶賛です。
香港の観客からのQ&Aを聞いていても、マーケットでのバイヤーの試写の感想を聞いていても同じ意見がでるのですが、音楽をうまく映像とマッチさせているのが素晴らしい感性だ、監督自身もミュージシャンなのか?といった、音楽の使い方に関する絶賛が多かったです。
自分がセールスしているブログを書くのに絶賛評ばかりでは、はなはだ胡散くさいので、なるべくフラットに書きたいのですが本当にみなさん「スゴイ」という感触なので、正直に書いてみました。
信じた才能が、同じ受信レベルで世界で受け入れられる瞬間は、いつでもすこぶる快感です。
しかし、私はセールスをする立場なので、敢えて厳しいことを言えば、映画祭に出品されるのは、ようやく宣伝が始まったということです。これから、バイヤーと、次にその向こうにいる観客に認めてもらわなければ成功とは言えません。映画は作ることが目的ではなく、世界中でひとりでも多くの人に見てもらってなんぼです。これを達成するには、まだまだ仕込みが必要です。
そして、このことは、1本の映画だけでは、そうカンタンに成し遂げることはできません。
やはり才能を信じた一人の監督と、2本、3本とおつきあいしていく中で徐々に成果が出てきて花開く、そういう仕事だと思っています。1本の作品のセールス結果ですべてを評価をせざるを得ないモデルで海外セールスビジネスをしている限りは、なかなか達成し得ないことだと、私は考えています。なので、いつも監督の世界への道は、中長期で見ているのです。
一方で、反省点はと言えば、この映画祭の出品に間に合わせるために字幕作業の時間がたっぷりと取れなかったこと。本来であれば、少なくとも監督と一緒にスタジオに籠ってひとつひとつの字幕についてしっかりと意味論を確認しながらつけていく作業が必要です。特に、監督の撮影意図として、普通の会話の中から、自然発生的にrap musicにセリフが移行するというところに重きを置いているという点、
そしてコメディトーンで始まり、後半はぐっとセンチメンタルにムードが変わる作品構成を考慮すれば、例えばラップの歌詞ひとつのもつ、繊細なニュアンスもひとつひとつ作り上げて必要があるので、その点、ちょっと時間切れだったのがザンネンなところ。rapはライムがすべてなので、日本語のラップを英語にするのはとてもとても難しい作業でした。これまでに数多くの和英、英和字幕を手がけてきましたが、間違いなくサイタマノラッパーの英語字幕作業は、難易度最高級だと断言できます。
もちろん、このような細かいニュアンスは、直接的に観客の目に明確になることではないので、香港のお客さんも、日本の観客と全く同じところで笑いが起きていたので、字幕そのものが失敗しているということではありません。ここまで細かいことは、もしかしたらほとんど趣味の世界なのかもしれませんが、ただ、その細かいニュアンスを追求した結果の積み上げが、全体のイメージを決めることは間違いないので、もっともっとこだわりたかった、というのが最大の反省点です。
さて、私はと言えば、
お部屋に戻って、百万ドルの夜景を眺めつつ、
そして入江監督が3年後に世界の舞台で大車輪の活躍をしている姿をイメトレしながら
この数日間の香港での自分の活躍ぶりにもおつかれさまの乾杯をしているところです。
そして、ぼんやりと、去年ここにいたときは、震災6日後の混乱の中、
『時をかける少女』のチャリティ上映をやって、そして、世界の人から、
原発のことをいろいろ聞かれたんだったな、ということを思い出しています。