八勝のマジック
Saturday, 5 February, 2011
熱い気持ちで応援していたココ一番!の勝負が、
インチキだったのかも!ということで、 相撲界がエライことになっていますが、
私は相撲を見ないので、どういう仕組みの話なのか、ぜんぜん判らなかったのですが、
どうも耳を傾けてみると、相撲の「八百長」には、
「八勝のマジック」というものが関係しているらしい、ということが判りました。
相撲に詳しい人は、ここはすっとばして、もっと下の方から読んでください。
力士の番付は、年内の6回の「場所」春場所とか、夏場所とかの
「順位」(番付)で決まるそうですが、この番付、幕内力士と幕下力士では、
年収の差がものすごいらしいのです。
もちろん、部屋内での待遇も違い、幕下になれば、まさに雑巾がけの人生。
相撲を取るためにこの世界に入ったのに、生きる土俵が違う…と、
その精神的な落ち込みたるや凄まじいとか。
ワイドショーの解説によると、幕下になった瞬間に、
それまで150万円だった賞金がゼロ円になるそうなんですね。
差がありすぎますね。
でも、勝負の世界って、相撲に限らず、そんなもんなんじゃないですかね?
その代り天井も高い、と。
ま、それはさておき、なので、お相撲さんの中で、
純粋な勝負よりも、ちょっと金銭的なことの方が気になってしまう人の中には、
「八百長」して、いっぱい勝ってる人の「勝ち星」の貯金を、
ギリギリの線に立ってるオレに譲ってもらおう、
平たく言うと、わざと負けてもらって、エリート力士のポジションをキープしよう。
その代りといっちゃあなんですが、お礼はタップリ…、
という裏取引をしているということだそうです。
そのギリギリの線が、8勝目、ということ。
相撲の番付は、全15試合で決まります。
もし千秋楽に7勝7敗の力士がいたとして、現在、8勝6敗の力士と勝負して、
最後の一番で負けたら…ああ、7勝8敗。
たったの1負けで幕内落選。うーん、オシイ、クヤしい。
あと1勝あれば…エリートのままでいられたのに…
同期のアイツ、同じちゃんこをくった仲じゃないか、
困った時はお互いさま、助け合いの精神だぜ、よろしくな。
という心理かどうかはしりませんが、
まぁ、そういうやりとりで、イカサマが起こる、
8勝6敗の力士が7勝7敗の力士にわざと負けて、その1勝をプレゼント、
ああ、今年も一年安泰ネ。ということのようです。
この八百長報道でガゼン注目を浴びたのが、
このことをずいぶん前に発表していた「ヤバい経済学」のスティーヴン・レヴィット教授。
「Freakonomics」(マニアの経済学)という造語がキャッチーで、
アメリカで170万部のベストセラーとなった本。
私も発売時に読みましたが、これを映画化した人がいます。
マクドナルドを食べ続けると太るよ、ということを身をもって実証した
『スーパー・サイズ・ミー』のモーガン・スパーロック監督を含む
6人で作ったオムニバス・ドキュメンタリー。
その中にこの相撲の八百長の話も入っていて、
さぁ、一体、誰にインタビューしてるのか?
こちらの映画の方も我然注目を浴びてきました。
時代が作品に追いついたのかもしれません。
ところで、日本にもヤバい経済学、
AKIBA系悪ガキ教授がいるのをご存じですか?
なにがアキバ系って、
IT業界、ゲーム業界の分析がご専門ってこともあるのですが、
いつもチェックのネルシャツを着ているのですから、これはモノホン。
それが、慶應大学経済学部、計量経済がご専門の田中辰夫先生です。
田中先生、私は隠れて勝手にタッチャンと呼んでますが、
タッチャンが最近、またアブナイ論文を発表しました。
「You Tubeでの視聴が増えれば、DVDの売上も増えるので、
そんなに違法ダウンロードを恐れてはいけない」という分析結果です。
経済産業研究所の論文として発表されています。
が、最初に「ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、
(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません」と
わざわざお断りしてあります。
一体どれだけヤバい経済学なんでしょうか?
簡単にザックリと先生の主旨の中で、一番の注目ポイントは、
You Tubeで視聴されたコンテンツだから売れない、という業界の考え方は実は逆で、
You Tubeでたくさん視聴される方が、むしろDVDの売上は伸びる、
だから、ネットの違法ダウンロードの被害を法律を持って束縛するのは実はナンセンス。
知らないうちに、損してるんですよ〜。
「YouTube視聴は被害を与えておらず、むしろ売り上げを増やしているので、
YouTube型の配信ビジネスは広めることが望ましい。
YouTubeでの配信を嫌って削除を続ける権利者は自ら損をしていることになる。
この意味でダウンロードの違法化は誤った政策であったと言えるだろう」
ということなんです。
しかしこれを実証するには、もっと現場での分析サンプルがたくさん必要。
まだビジネスの目が出ないうちから政策で縛るのではなく、
制作会社の自由意思で、試行錯誤を積極的に行って、
著作権者が自分たちで本当に損なのか、実は得してるのか?を判断した方がよい、
この自由な判断によって配信ビジネスが立ちあがるのがスジってもんなんだから、
権利団体が規制するのはよくない。
という主張です。
経済学的に詳しいこと、田中先生のもっと深い主旨は、
論文をくまなくお読みいただきたいのですが、
タッチャン分析によれば、
【YouTubeでの視聴はDVDの売り上げを減らさず、むしろ増やす効果がある。
YouTube視聴が1%増えるとDVD売り上げは0.25%増加する】だそうです。
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私は「直感的」にこれは正しいと感じています。
ちょっと前、個人的なハヤリとして、
寝る前にipadで『水曜どうでしょう?』をイッキ見するのが習慣になっていたのですが、
ある晩、一斉にYouTubeから削除されたことがありました。
翌朝のNEWSで、著作権の関連団体が一斉削除依頼をかけたと知りました。
まぁ、定期的に削除申請はやっているので、イタチごっこなのですが、
ヨーロッパ横断の旅を見て爆笑し、おかげで快眠。
次は「アメリカ横断の旅」のDVDをローソンで買っちゃおうかしら?と思っていたところ、
ヨーロッパを中断されたので、もうアメリカの旅もどうでもよくなっちゃった、
ので結局DVDも買わなかった。
という、おそらく圧倒的多数であろう消費者心理の経験があります。
コンテンツを販売する立場の私がこんなことを言うと、非国民扱いされそうですが、
日本の映画ははっきり言って海外でぜんぜん売れないので、
売れないくらいなら、タダでもいいから見てほしい、
と思うことも多々あるのが正直なところです。
「観るにたる作品」な場合、まだ市場が成熟してないという理由から、
放っておいても観に来てくれないなら、
積極的に見せなきゃ始まらないじゃん。と思います。
ただ、ここではっきりさせておきたいのは、
【売れないコンテンツはダンピングせよ】、ということが私の主張ではありません。
【売れるコンテンツをもっと多く売る戦略のひとつとして、
配信を巧く使って広く見せる方法もひとつアリなんじゃ?】ということです。
狭い場所で特定の人を狙った「適正サイズ」で勝負する、それもあり、
なことは前回のブログで書きました。
ただ、市場が未成熟な場合、例えば日本映画の世界における立ち位置がそうですが、
まずは知ってもらう→支持してもらう→人気を作る→市場が価格を決めていく、
という価格浸透戦略は、新しく市場を作っていくときは必要だと実感しています。
これはアカデミックな話ではなくて、現場の直観です。
売れもしないのに、大事に大事に倉庫に抱えておくという悪循環を、
権利保護という意識が強すぎるために、知らず知らずにやっている、という
日本の映画は結構あると思っています。
例えば、国内での映画の宣伝でも、広く見せる、口コミさせる戦略のほとんどが
「無料試写会」という方式です。
また多額の広告料を払って、たった15秒のTVコマーシャルを打っても、
そもそも若い人はテレビを見てないし、15秒ではその映画のよさは伝わってこないので、
テレビCMの効果ももはや希薄。
ときどきひかりTVなどで、無料リビング試写会とかいって、
期間限定で配信をしていますが、
いちいち応募して当選しないと見れないのであれば、
その手間が面倒なので、そこまでして見たくないもんな〜、となってしまい、
情報も機会も流れてしまう、
結局「興味のない人の興味を引く」ことに失敗しています。
音楽業界では、ナップスターのショーン・ファニングが
いち早くダウンロード文化を作り、
その後の音楽業界の配信ビジネスの流れを変えたということは、
オスカー候補の『ソーシャル・ネットワーク』で学びました(笑)。
映画はこの点「ストリーミングならまだしも、
ダウンロードは絶対にダメ」というムードが まだまだ強いので、
今後どうなっていくのか、興味深いところです。
ターゲットとする世代によっては、
テレビや紙媒体→ネットへ完全移行済みです。
もはや時代のうねりには抵抗しきれないところまで来ているので、
複製ビジネスを生業としている人は、早いとこ、考え方を切り替えて、
次の手を考えた方がよいことは、もう間違いありません。
TSUTAYAなんかは、かなり前からしっかりと次の手を打っています。
(と、ホリエモンも言ってました)。
田中のタッチャンの分析は、ご本人もおっしゃってますが、
まだまだ少数派です。
もちろんもっともっと多角的にサンプルを検証していかなければ、
いちがいに「そうだ、そうだ!」とも言えないでしょう。
今は、間違いなくヤバイ経済学です。
しかし、アメリカ版の悪ガキ教授の論旨も、
時を経て、証明されてしまいました。
超少数派、日本版ヲタ教授の論旨も、
きっと歴史が証明してしまうことでしょう。
こうした一人のカンを多くの確信に変えるという意味で、
田中辰夫教授がいろんなとこで叩かれながらも
積極的に行っているこの経済分析を私は支持します。
それから、【ひとりの直観をみんなの確信へ】という意味では、
GEM PARTNERSの梅津さんの映画市場分析
もいつも的確です。
映画業界でも
どんどんこういうツールを使った方がよいと考えています。
当たり前のことも、数字で証明されると
人は妙にナットクしちゃうものですからね。
もちろん、数字にはさまざまなマジックがあるので、
盲信的になってはいけません。
いろんな角度から判断しないとダメ。
そして、単なるツールと割り切って向き合わないと
数字のマジックに騙されてしまいます。
それを私は、「全米ナンバーワン映画」のマジック。と呼んでいます。
全米ナンバーワン!という謳い文句の映画が沢山あるという現象です。
ようは、どこを切り取って No. 1と言っているか?はさておき、
No.1のとこだけクローズアップする宣伝手法のことです。
もはや古いので、マジックでもなんでもないんですが。。。
映画のマーケティングは直観が先。
それを後押しするのが、計量分析だと、私は考えています。
大切なことは、既成概念に囚われて、
わざわざ自分から「選択肢」と「可能性」を狭めないこと。
配信も含め、商売するにたる、正しい道具を選ぶこと。
作品ごとに、どのツールが最適なのか?を
「戦略的に」選択する。
そういうことだと考えています。
そんなわけで、タッチャンからは今後も目が離せないのであります。
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