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日本のDVD市場についてのパネルディスカッション

July 8, 2010, PARIS,
BNF(Bibliotheque Nationale de France)

パリシネマ国際映画祭は、
ベルシー界隈にあるフランス国立図書館がメイン会場となっていて、
主な上映作品は、図書館の敷地内にあるmk2のシネコンや、
トリュフォー、ゴダール、ロメールらが通った映画文化センター、
世界中のシネフィルたちが泣いて喜ぶ
シネマテーク・フランセーズなんかで行われている。

http://www.cinematheque.fr/
ちなみに、ホテルはこのシネマテーク・フランセーズのすぐ隣で、
毎朝、セーヌ河にかかるこんな橋を渡って、通勤。
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パリシネマでJAPAN FOCUSが開催されていることと関係しているのか、
このBNFで「日本のDVD市場について」の
パネルディスカッションをするので、
日本人唯一のパネリストとして登壇せよという命が下り、
「私は配給筋ではあるけれど、買い付けや宣伝も劇場畑であって、
ビデオ畑の育ちじゃないよ?」とお断りしてみたのだけど、
「他に日本から配給経験者が来ないので、あんたでよいのだ」、と
限りなく消去法でキャスティングされた。…ような気がする。
登壇者は、フランスで日本のアニメをバンバンヒットさせている
配給会社KAZEのセドリック・リッタルディ。
園子温監督作品の仏配給を手掛けているWILD SIDEのマニュエル。
カンヌ監督週間のディレクター、ジェレミー・セルゲイ。
そして、日本のVシネマ研究の第一人者、トム・メス。
それから、ベルギー人で東南アジアの現代映画研究家の
バスティアン・メイレソンヌ。
割とヨーロッパにおける日本映画の鉄板メンバーが
揃ってる感じ。
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しかし困ったことに、このメンバー的に、
全員フランス語でパネルをやることになっていて、
私にだけ仏英の通訳さんがついてくれることに。
しかしフランス語の通訳ってホント、難しそうだな、
と常々思っているのだけど、フランス人のお話って、
ホント、単語、文章が多い。
ずーーーーっと喋ってる。
しかし、実はポイントはそれほど多いわけではない。
私はフランス語は話せないけれど、
ひとつのことを巡っての説明が、
ひょっとして、とてつもなく長いのが特徴的な言語なのではないか?
ディスカッションの同時通訳というのは、
いかにポイントを拾って、要約を短時間に凝縮できるか?にかかっている。
しかしセンテンスが長くて、パラグラフも長いフランス人トークは
とても訳しにくいらしい。
フランス人パネリストは、ずーーーーっと喋ってるのに、
私のイヤホンから聞こえてくる英語は、それほど多くない。
沈黙の時間が多い。
「おや?司会が私になにか聞いてるようだぞ?」
と思っても、その質問が訳されるまで、時間差がある。
「パリのマッチさ〜ん」と呼びかける黒柳さん。
30秒ほど遅れて、「はーい、久米さん、黒柳さーん」と答えるマッチ。
30年前のベストテンの国際衛星中継みたいだ。
さて、内容ですが、主に4つのポイントについて話ました。
1)現在のDVDセールスについての概要。誰が買っているのか?
 J−POPは、DVDセールスにどれくらい貢献しているのか?
 この部分は、私がまさに市場の真ん中にいる消費者として
 いろいろと実情をお話してきました。
2)ベータ→VHS→DVDへの変遷。ソニーとVHSの戦いについて。
 VHS勝利の影に愛染恭子あり、の証拠ビデオと
 当時、ソニーがプロパガンダ用に作った、非常にシュールな
 「ベータってなんだ?」というビデオの2本を鑑賞。
 フランス国内で世に出たものは、全部ある。
 さすが国立図書館。かなり貴重な映像を見せてもらいました。
3)Vシネの勃興と現状について。
 このトピックでマスター論文を書いているという
 トム・メスはんの独壇場。
 三池崇監督の最初のVシネや、黒沢清監督の「893タクシー」など、
 世界ではとっても特殊なVシネというジャンルが
 日本映画に果たした役割を、
 みごとな研究結果を持って語ってくれました。
 
 三池監督のVシネは、みたことあるお姉さんがいわゆる悪女を演じている
 アクションでしたが、 なんと、クレジットを確認したら、
 この悪いお姉さんは 昔はかわいいお姉さんだった柏原よしえでした。
 それから、日活ロマンポルノも部分的に拝見し、
 司会者が唯一の女性パネリストの私に
 「おまえはVシネやポルノを見たことがあるのか?」と質問したので、
 私は、シネクイント時代に、女子限定日活ロマンポルノナイトってのを
 やって大ヒットした経験があるんだ、と威張ってやりました。
 
 当時のシネクイントの支配人は、史上最年少で日活ロマンポルノの
 脚本賞を受賞したツワモノで、彼のたっての希望で実現したこの
 ロマンポルノイベントは、女子限定にしたことで本当に大盛況で、
 うら若いお嬢さんが、夜通しポルノ映画を3本立てで見てましたっけ。
4)最後に、これも日本に顕著な「スペシャル・エディションDVD」の紹介。
 特典映像だけではなく、たとえば石井克人監督の『茶の味』には、
 劇中に出てくる「動く絵本」が4冊も入っていたり、
 ハリウッド大作も日本版だけに特別なおまけを入れていたりと、
 コレクターズアイテムとしては嬉しいものだと、盛り上がってました。
 この時も話題に上ったのですが、
 日本のDVDには、英語字幕が入っていない。
 これは海外のファンにとっては、とても残念なことだそうです。
 そこで日本のDVDメーカーの方にお勧めしたいのは、
 とりあえず英語字幕はON/OFFで入れておいてはいかがでしょうか?
 かなり少数ではありますが、
 Amazonで海外からの注文が少しは増えると思います。
 香港のDVDには、たいてい英語字幕がついています。
 おかげで、イギリスからの発注もあるようです。
世界には、ほんっとに日本映画のファンっていっぱいいるんですよ。
ただ、配給会社がMG払って、PA払って大々的にやるほどの規模ではない。
それならミニマムで露出していけばよいと思うのです。
今回パリシネマで若松孝二監督特集が組まれたワケは、
フランスの配給会社が
「若松孝二再発見」キャンペーンを組んだからにほかなりません。
『連合赤軍』を始めとして、若松作品のアーカイブを
DVDボックスにして発売し、大々的に店頭でキャンペーン。
それで、再発見というか、フランスでは「新発見」に繋がったのです。
おそらく、新作『キャタピラー』に向けての下地作りだと思います。
パーティでは若松監督がとにかくフランス人に人気で、
「素晴らしい」と駆け寄ってくる映画関係者も多かったのが印象的でした。
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※ちょっと反射で見難いんですが、ビデオショップの店頭に若松孝二特設コーナーがありました。

日本映画はまだ海外に市場が十分にあるとは言えません。
とにもかくにも露出。
監督の名前、個々の作品、
まずは知られないことには、次の展開がありません。
【製作費が3億だったんだから、
 海外へ売る金額は最低3千万円以上じゃなきゃ、売らない。
 安く売るくらいなら、海外の観客に無理して見てもらわなくていい】
日本のプロデューサーから、実は、よく聞く言葉です。
ヨーロッパでこの論理が通用する監督は、
カンヌ映画祭の常連、
タケシ監督、是枝監督くらいではないでしょうか?
それでなくても、関係者は誰もがend of the modelを日々実感し、
もはやMGというディールの概念すら消えつつある昨今。
海外では知られていない監督の作品に、
大金を払う配給会社はもういません。
そういう時代は終わりました。
私は、日本映画の版権は、
まずは採算度外視で市場定着を図り、
ある程度の市場が確保できた段階でコスト回収を図る
【浸透価格戦略】を取るべきだと考えています。
若松監督のフランスにおける「再発見キャンペーン」は、
実は、監督ご自身のアイデアの実行だったと聞きました。
『キャタピラ—』へ向けて、若松孝二というブランドが
仏市場で本格導入段階に入っているという点で
どの日本の監督よりも一歩リードしています。
こういう状況を監督自身が作りだしたという実行力は、スゴイ。
なんだか思わず、日本のDVD市場の話から逸れてしまいましたが、
とにかく、海外の日本映画オタクたちの、知識の高さといったら
ビックリ、、、なパネルディスカッションで、
私自身がとってもお勉強になってしまったのでした。
熱心なことに、この時会場に来ていたフランスの大学生から
後日、質問メールが到着しました。しかも日本語で。
なんとか、少数派でも確実に存在する支持者たちを突破口にして
日本映画をもっと海外でも見てもらえるような環境を創り出せないものか?と、
そういう視点から、「なにか」を持ち帰りたくて
パネリストを買って出た私でしたが、
おかげさまで、頭の中は
有意義なお土産いっぱいになって帰ってきました。