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国際批評家連盟賞と最優秀アジア映画賞ナンスカ?

Sunday 20, February 2011 

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©2010 ヘヴンズ・プロジェクト
本日幕を閉じるドイツ・ベルリン映画祭で
【瀬々敬久監督の『ヘヴンズストーリー』が
アジアの最も優れた作品に贈られる最優秀アジア映画賞を受賞】
【瀬々敬久監督の「ヘヴンズストーリー」が国際批評家連盟賞に決まった。
この作品は、斬新な映画を集めたフォーラム部門に参加していた】
このベルリンでの国際批評家連盟賞は、
3年連続で日本の監督が受賞している。
おととしは『愛のむきだし』の園子温監督、
去年は、『パレード』の行定勲監督。
との報道あり。
大抵のNEWSで、さらりと「受賞した」と云われていますが、
この賞っていったいどんな賞なんでしょ?
3年連続日本人監督が受賞して、しかもそのうち2本は4時間超!
となると、
むむ?審査基準が気になります。
だってこの二つの賞は、ウィキを見たってどんな賞か説明がないくらい、
あまりよく知られてない賞です。
どうしてメディアはこれがどういう賞か?を
1行でもいいから書き足してくれないのかしらん?
ベルリン映画祭の公式ページを見ても、
なんとも簡単な説明しか書いてなくて、
ここでもイマイチどんな賞なのか判らず。
さて、ますます気になってきました。
「これ、どんだけの価値があるんだろか?」
【ベルリン映画祭公式ページより】
その他のインディペンデントの賞たち
数名のインディペンデントの審査員たちが、いくつかの賞を与えます。
その中でいくつかの賞は、映画祭のある特定の部門で
上映された作品に対して与えられる賞です。
各賞の目的によって、対象作品の受賞資格は異なります。
このインディペンデント賞は、FIPRESCI賞(フィプレスキと発音する)、
Ecumenical Jury賞、
テディ・ベア賞などがあります。
説明、こんだけ。
価値わからん。
この時点でさらに掘り下げていくのがちょっとめんどくさくなったものの、
この際なので調査を進めますと、まずFIPRESCIというのは、
International Federation of Film Critics(国際批評家連盟)のことです。
国際批評家連盟の公式ページの賞の目的第1章には、
「FIPRESCI賞の目的は、映画芸術の振興と
若い監督に勇気を与えることにあります」と書いてありました。
ということは、ベルリン映画祭が与える賞ではなくて、
世界中の各映画祭の出品作の中から、
国際批評家連盟が任命した審査委によって、
国際批評家連盟の視点で選ばれる賞、ということになりますね。
ってことは、実はベルリン映画祭が任命した審査員ではありません。
国際批評家連盟が選んだ審査員が、
ベルリン映画祭で上映されている作品の中から選んだ作品、
というのが正しい認識です。
ほほう。そうなのか。
任命される審査員は3人以上9人以下。
ちなみに今年の審査員は、
審査員長のディエゴ・レレール(え?誰?)、
大久保賢一(あ!大久保さんが審査員だったとは!
若手に優しい視線を送る日本の評論家さんです)、
以下、知らない人ばかりなので英語表記のまま記載。
Joao Antunes, Jurica Pavicic, Ingeborg Bratoeva,
Daniela Sannwald, Carmen Gray, Gulnara Abikeyeva, Silvia Hallensleben
世界中にメンバーがいる国際批評家連盟ですが、
日本は映画ペンクラブがメンバーとなっています。
それで今年は大久保賢一さんが審査員として参加されていたのですね。
なる〜。
ところで、気になる点がもうひとつ。
記事を見ていると、瀬々さんだけが国際批評家連盟賞を獲ったような錯覚に
陥らないとは言えないのですが、実はこの賞は、
コンペ部門、フォーラム部門、パノラマ部門からそれぞれ選ばれています。
瀬々監督のはフォーラム部門からの選出。
さて、瀬々監督がもうひとつ受賞した最優秀アジア映画賞(通称NETPAC賞)ですが、
こちらはNetwork for the promotion of Asian Cinemaの略で、
「アジア映画の世界的プロモーション」を目的とした団体から与えられる賞
ということになります。
こちらは批評家だけではなくて、批評家、映画祭関係者、
キュレーター、配給関係者、興行関係者がメンバーとなっていて
シンガポールが本部で、
「アジアの若いの才能を世界へ知らしめるために設立された」ということです。
が、日本のメンバーは、川喜多映画財団、映画評論家の大久保賢一さん、
同じく映画評論家の佐藤忠雄さん、
そして、ヴァラエティ紙日本記者のマーク・シリングさんの4名(団体)。
配給関係者、興行関係者はいませーん。
これまでに、ジャ・ジャンク—やスタンリー・クワン、
イ・チャンドン、キム・キドク、そして日本では
河瀬直美監督、崔洋一監督なども選出されてきましたが、
記憶に新しいところでは、2008年のベルリン映画祭で
若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』が受賞しています。
ん?若手を応援?
若松監督、年齢も経歴も
クリント・イーストウッド級のベテラン。
ちと疑問です。
こちらも、ベルリン映画祭とは別に選ばれた
(今年は)3人の審査員が選考にあたりました。
今年の審査員は、Lorna Tee, Pimpaka Towira, Nora Bierich。
Lorna Teeは、マレーシアのプロデューサーで、
コンペに唯一アジア映画として選ばれていた
『Come Rain, Come Shine』(『愛してる、愛してない』)の
共同プロデューサーです。
ちなみに、2009年のプチョン映画祭で、
入江悠監督の『サイタマノラッパー』が、
2010年のモスクワ映画祭で、栗村実監督の『飯と乙女』が
NETPAC賞を受賞しています。
さて、私がここまでシツコク調べて発信している理由は、
これらの各賞を批判するためではありません。
しかし、あちらこちらの記事を見ていると、
まるで日本の瀬々監督が、
あの世界三大映画祭のベルリンを舞台に
世界中の映画人から認められた!的なニュアンスがなきにしもあらず。
私が思うに、twitterやfacebookなどの「なんでもバレる」時代には、
「日本の監督だけが認められてスゴイのだ」みたいな
プロパガンダ記事ではなくて、もっとこの賞の本質的な価値を
きっちりと評価して書いてくれた方が、
実際には一般にまでそのすばらしさが届くのではないかな?と、
思う次第です、ということです。
「誰が」、「どういうテイスト」で「何を目的に」この賞を与えたのか?
4時間半という壮大な作品を作って世界へ発信した瀬々監督は、
商業的にはきっと苦戦を強いられるだろうが、
フィルムメイカーとしてのその勇気と人間をみつめる力が、
インディを支える世界やアジアの評論家筋から絶賛された。
それがこの賞の本質だと思います。
「資本に媚びない監督の覚悟」、が受賞の理由なのでしょう、きっと。
なので、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』が
ベルリン映画祭で金熊賞を受賞したのとは、質が違う話なんです。
(宮崎監督が資本に媚びてるという意味ではありません)
そこんとこと取り違えないようにしないと、
受賞の価値に興行成績がついてこず、
「ベルリンで賞を獲ったといったって、日本の興行には関係ないよね」
なんてつぶやきが、
あろうことか業界内にまで浸透してしまうと思うのです。
こういう背景を知ってこそ、初めて瀬々監督の
「世界の場で上映され、評価されたことは感慨深い」
というコメントも生きてくると思いませんか?
アニメと東宝映画の一本かぶり状態が続き、
インディペンデント映画が死語になりつつある昨今、
一般の観客にもっとその映画の「立ち位置」をしっかりと伝えていけたらよいのにな、
と考えたりします。
映画は総合芸術。
思いっきり芸術寄りの作品もあれば、
これでもか?と商業寄りの作品も世の中に混在しています。
監督が何を言いたいのか?
世界はなにを評価しているのか?
映画はその作品が立つべき正しいポジションに置いてから、
観客自身が評価する時代なのではないかと思います。
そういう意味で、日本の作品が毎年受賞していることは、
「世界に邦画の実力があがってきたことを、いち早く知らせたい」という意味で、
大変有意義な発信だと思います。
が、現実的には…
世界中の映画祭やマーケットを飛び回っていても、
いまだに多く耳にするのは、
「日本映画と言えば、黒澤明。
クロサワを超える監督はまだ出てこない」という賞賛。
世界のクロサワが一世風靡してから、何年経ったんですか?
ということで、映画業界内でも外でもいいですから、
どなたかいち早く、世界のクロサワを超えて
日本映画の世界でのポジションをふたたび変えてください!
後方支援は惜しみなくいたす所存です!
「なんで世界で認められなきゃいけないの?」という声も
半分くらい聞こえてきそうですが、
じゃぁ「なんで世界で認められちゃいけないの?」ってことで、
どっちでもいいんですケド、
でもこっちの半分が全然出てこないってのは、つまんなくないですか?
やっぱり長友がインテルで活躍したらアガりますもん。
モックンがアカデミー行った時もアガりましたしね。
なんか、そういう感動、欲しくないですか?
さてここんとこ、ぜひ誤解してほしくないのは、黒澤明監督は、
世界市場をターゲットに作っていたわけではない、ということです。
ポイントは【日本市場か海外市場か?】という議論ではないのです。
ああ〜、とはいえ、4時間38分は長いな。
全9章…
映画館に行くのに、相当、気合い、いるわ。
予告篇がすでに長いっす。